冷たい指先が、あたしの手を掴む。


きょとんと目を丸くさせたであろうあたしに彼はさも可笑しそうに、くつくつと笑った。一体、何が面白いと言うのだろうか。



「おかしな人ね」
「さぁ、早くいきましょう!!」



彼の手は、思ってたいたよりは温かかったが、やはり、冷たい。
今度は、あたしの腕を掴もうと彼が手を伸ばす。あぁ・・・、あなたがあたしの事を抱きしめて下さったらどんなに幸福なのでしょうか。



        
あぁ・・・、彼は、あたしに、触れない。



「あなたとは、いけないわ。だって」



       
 答えは、単純で、明快だ。



「だって、あなたは、人間では、無いですもの。だから、あたしは、あなたと、いってあげることは、出来ないの」



そう、幼子に諭すように、ゆっくりとそう言うと彼の顔がたちまち寂しげに歪んだ。ちゃんと、あたしは無表情だっただろうか。ここで、あたしまで寂しそうな顔をしてはいけない。



「・・・そう、でしたよね。僕は死んでいるのだから」



        そう、彼は死んでいる。



「・・えぇ、ごめんなさい・・・」
「・・・いいえ、僕は最期を看取ってくれたのが貴方で良かった」



そう言うと、彼はあたしが大好きな笑顔を見せた。ねぇ、どうしてそんな顔をするの?あたしが貴方のことを忘れなくする為?それでなくても頭の中は貴方の事で一杯だと言うのに。
気まずくなって、視線を床に落とした。あぁ、彼のあしの足の向こうに、見慣れた部屋が見える。



「さようなら、僕のお姫様」
「………」
「国を、大切にして下さいね」



どうして、貴方はいつもあたしの考えている事が分かるの?なのに、どうしてあなた自身のことをあたしに話してくれないの?狡いわ、意地悪よ。
理不尽な事を頭で考えながら、床を睨み続けていると、彼はくつくつと笑った。何が可笑しいんだろうか。別に、あたしが頭に花を生やしてるわけでもないのに。そう思い、顔を上げると、彼はにっこりと微笑んで(ありがとう)と言った。あぁ、狡い人だこと。





彼が光と共に姿を消した。





ごめんなさい。
愛していたの。
確かに、愛していたのよ。

だけど、あたしは生きている。今まで生きてきた中でこれほど、自分の名を恨んだことがあるもんか!!一緒にいくことが出来たらどんなに良かっただろうか。あたしは、王族として。国を治める者が、あたしを残して誰1人居なくなった、今。この国を、治める義務がある。この国を、守り抜く責任がある。

熱いものが込み上げ、音もなく涙を流した。







思いと、義務